Introduction of an artist(アーティスト紹介)
画家人物像
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マザッチョ(マザッチオ) Masaccio
1401-1428 | イタリア | 初期ルネサンス・フィレンツェ派




彫刻家ドナテッロ、建築家ブルネッレスキと共に初期ルネサンスの三大芸術家と称されるフィレンツェ派の代表的な画家。15世紀の絵画においてドナテッロからの影響である明暗法による人体の立体的・構造的な表現や、ブルネッレスキが発見した遠近法を用いた空間表現を有機的に結びつけた最初の画家とされ、その表現は15世紀の画家達に決定的な影響を与え、同じく初期ルネサンスの代表的な画家ボッティチェリや、イタリア・ルネサンスの三大巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチミケランジェロラファエロなどの活躍で最盛を迎えることになる。特にカルミネ聖堂ブランカッチ礼拝堂の連作壁画(貢ぎの銭楽園追放など)はフィレンツェの画家に「学校」と呼ばれるほどの手本となったほか、サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂の『聖三位一体』では絵画至上初となる科学的(幾何学的)遠近法を作品中の建築空間へ適応するなどイタリア・ルネサンスを語る上で最も重要な画家の一人。28歳と若くして天に召された。

Description of a work (作品の解説)
Work figure (作品図)
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サン・ジョヴェナーレ三翼祭壇画


(Trittico di San Giovenale)1422年
108×153cm | テンペラ・板 | カッシア・ディ・レッジェッロ

現存するマザッチョ作品中、最初期のものとされる『サン・ジョヴェナーレ三翼祭壇画』。本作の主題でもある玉座の聖母子と天使を配する≪聖会話≫を描いた中央部分(108×65cm)の『玉座の聖母と幼子イエス、二天使』、祭壇画左翼部分(88×44cm)である『聖バルトロマイと聖ブラシウス』、祭壇画右翼部分(88×44cm)『聖ユウェナリスと修道院長聖アントニウス』から構成される本三翼祭壇画は、第二次大戦後にフィレンツェ郊外のカッシア・ディ・レッジェッロのサン・ジョヴェレーナ聖堂(サン・ピエトロ教区聖堂)で発見された作品で、時代考証など様々な点から研究された結果マザッチョ最初期の作品と認められた。聖母子の厳粛な表情や様式的構図など古典的な作風にもマザッチョのリアリスム的な表現が見受けられ、左右の祭壇画部分から本作の帰属が研究されたことが知られている。左翼部分『聖バルトロマイと聖ブラシウス』の聖バルトロマイはキリスト十二使徒のひとりで、インドへキリスト教を伝道し、アルメニアで身の皮を剥がれ殉教したと伝えられている。なお本画面の下部には「1422年4月23日」と制作年が記されている。

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楽園追放

 (Cacciata paradiso terrestre) 1425-1427年頃
208×88cm | フレスコ | カルミネ聖堂ブランカッチ礼拝堂

あまりの神の怒りの大きさに両手で顔を覆うアダムや、悲嘆に暮れるエヴァの表情など、稀な構図で描かれたフィレンツェのカルミネ聖堂ブランカッチ礼拝堂連作壁画のひとつ『楽園追放』。主題は旧約聖書創世記から禁断の知恵の実を口にし、父なる神の怒りに触れ楽園を追い出されたアダムとエヴァを描く≪楽園追放≫で、父なる神の厳しい断罪を受け絶望に打ちのめされるアダムとエヴァの迫真の表現が見事な作品だが、遠近法で描かれる背景の処理や明暗法で描かれる人体の構造的描写など古典美への回帰を感じさせるマザッチョの美術的思想など、その他にも特筆する点は多々ある。特にエヴァに関してはギリシア芸術による≪恥じらいのヴィーナス≫を手本とした14世紀の作品の影響も認められており、古典芸術とルネサンス思想を独自に解釈した新たなる融合が試みられている。しかし残念ながら本作は長きにわたる年月によって遜色が激しく、汚れと色褪せによって本場面の表現が暗く沈み、最近の洗浄により青灰色の下塗り層が判明するも、当時の色彩を完全に再現するには至っていないが、なおそれでもブランカッチ礼拝堂連作壁画のひとつとして描かれた『貢ぎの銭』と共に、フレスコ画の最高傑作として現在もその存在価値を十二分に示している。

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貢ぎの銭

 (Tributo) 1425-1427年頃
255×598cm | フレスコ | カルミネ聖堂ブランカッチ礼拝堂

フィレンツェのカルミネ聖堂ブランカッチ礼拝堂連作壁画のひとつでマザッチョの代表的な作品でもある『貢ぎの銭』。この壁画は『聖ペテロの生涯』として6作品からなる連作で描かれた内の一点で祭壇に向かって左壁に描かれている(右壁は同じくフィレンツェで活躍したマゾリーノが担当)。リアリズムが認められる人体の立体的な表現、円環的に配される群像、高度な遠近法が用いられる背景など、本作はマザッチョの革新性が顕著に示される作品として特に重要視されている。本作はマタイ福音書17章24-27節からがカペナウムの町に訪れたキリストとその使徒の一行に税を要求する収税吏と、その税を工面の方法を聖ペテロに指示するキリストを描いたもので、画面中央ではキリストに指示を受ける聖ペテロが、画面左側ではゲネサレ湖のほとりで釣った魚の口から銀貨を取り出す聖ペテロが、画面左側ではその銀貨を収税吏に渡す聖ペテロがそれぞれ描かれている。ここでは特筆すべき点として、弟子に指示を出すキリストと弟子達を中心に紹介しているが、是非作品の全体図も参照していただきたい。

関連:『貢ぎの銭』全体図

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キリストの磔刑

 (Crocifissione) 1426年頃
83×63cm | テンペラ・板 | カポディモンテ国立美術館

1426年2月19日から制作が開始されたと記録が残っているピサのカルミネ聖堂内礼拝堂のために描かれた多翼祭壇画より最も重要な中央上部分『キリストの磔刑』。公証人ジュリアーノ・ディ・コリーノ・デリ・スカルシ・ダ・サン・ジェストの依頼により制作された本作は、現在までに11点確認されている多翼祭壇画に描かれた聖話のひとつでキリストがエルサレムで磔刑に処される場面を描く≪キリストの磔刑≫を主題に制作されている。他にも聖パウロや聖ヒエロニムス、東方三博士の礼拝などが各部分の主題として描かれた。また制作記録からは初期ルネサンス三大芸術家のひとり、彫刻家ドナテッロとの交友も確認されいるなど、マザッチョを研究する上でも重要な作品でもある。本作に配される人物の迫真に迫る表情や、大胆なポーズなどで表される感情の表現が、作品により一層の臨場感と神聖性を与えている。エルサレムの処刑場で磔刑に処される主イエスの別呼称名である『キリスト』とは、ヘブライ語のマーシーアッハ(メシア=救世主の意)からギリシャ語訳「クリストス」を転じた言葉で、本来は油を塗られた者を意味する王に与えられた称号であった。聖母マリアの視線の先には刑に処されるキリストに跪く十二使徒のひとりで福音書記者でもあるキリストに最も寵愛された弟子ヨハネの姿が描かれる。

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聖三位一体

 (Trinita) 1426-1428年頃
667×317cm | フレスコ・画布 | サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂

1568年に塗りつぶされ一度はその姿を消したが、1861年に再発見、1952年からはフィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂に安置されているマザッチョ最大の代表作『聖三位一体』。作品中にも妻とともに描かれるフィレンツェの上流市民ドメニコ・レンツィより寄進された本作の主題は、キリスト教の最も重要な根本的教義を示す≪三位一体(父なる神、神の子イエス、聖霊の三位は全て本質(ウーシア)において同一視され、唯一の神はこの三つ全てをもつ実体であるという考え方)≫で、科学的根拠に基づく遠近法を発見した建築家ブルネッレスキの協力があったと推測される完璧な遠近技法によって処理された威風堂々たる画面構成や、リアリスムを感じさせる人物の細密な描写、50年ほど前のサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂への移動の際に確認された画面下部の石棺に横たわる骸骨の全身像など注目すべき点は実に多く、現在も様々な点から学術的に研究が進められている。初期ルネサンス三大芸術家の作品に相応しい重要な作品として世に知られている。本作ではこのほかに登場人物として聖母マリア、洗礼者ヨハネ、寄進者であるドメニコ・レンツィとその妻が描かれ、寄進者の下部には細密に描写された石棺に横たわる骸骨の全身像が描かれている。

関連:聖三位一体部分拡大図

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