Introduction of an artist(アーティスト紹介)
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アントネッロ・ダ・メッシーナ Antonello da Messina
1430-1479 | イタリア | 初期ルネサンス




15世紀、メッシーナを中心に活躍したシチリア島出身の画家。ヴェネツィア派の発展において、決定的な役割を果たす。その様式はイタリアで発見された遠近法や幾何学的形態、油彩による濃明な色彩のほか、フランドル絵画からの影響である細密描写など、当時の西欧絵画の融合をみせる。修行時代にスペインやプロヴァンス、フランドル芸術に触れた後、おそらくはピエロ・デラ・フランチェスカジョヴァンニ・ベッリーニなどに影響を受け画風を形成したと考えられているが詳細は不明。しかしながら、美術界で多岐にわたる15世紀当時の国際的な影響関係を示すアントネッロ・ダ・メッシーナの画業は、現在も最も重要視される点のひとつである。

Description of a work (作品の解説)
Work figure (作品図)
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書斎の聖ヒエロニムス

 1470-1474年頃
(San Gerolamo nello studio)
46×36.5cm | 油彩・板 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

小画面でありながら広壮な建築を描くというイタリア絵画独特の特徴と、フランドル絵画の特徴である細密描写を示すアントネッロ・ダ・メッシーナの最高傑作『書斎の聖ヒエロニムス』。その繊細かつ圧倒的な細密描写から、以前はフランドル絵画の巨匠ヤン・ファン・エイクの作とされてきた過去を持つ本作の主題はウルガタ(聖書の教会公認ラテン語訳)を完成させた聖書学者であり、教皇秘書をも務めたキリスト教の聖人≪聖ヒエロニムス≫で、主題の聖人を始め、光と影に見られる自然や動植物、本場面でおこなわれる知識・学問など構成する全てのものが、この小画面の中に、広大なる宇宙的な世界観を表している。また本作の制作時期について、ナポリで描かれた初期作とする説とヴェネツィア滞在時に描いたとする説の2説が有力視されている。静的な場面でありながら計算された構図や配置、高い描写力や表現力によって、本場面を見る者に精神的な充実と感動を与えている。極めて正確に描かれる遠近法はイタリアの、窓の後景に広がる風景の細密描写はフランドル絵画の特徴を示している。また、この画面の下部には聖ヒエロニムスのアトリビュートであるライオンが描かれている。

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受胎告知の聖母

 (Vergine annunziata) 1473-1474年頃
45×34.5cm | 油彩・板 | シチリア州立美術館

15世紀当時の国際的な影響関係を示す稀有な画家アントネッロ・ダ・メッシーナが残した類稀な傑作『受胎告知の聖母』。本作には、大天使ガブリエルから父なる神の意志により神の子イエスを宿す聖なる器として選ばれ、聖胎を告げられる≪受胎告知≫の主題から聖告を受ける≪聖母マリア≫が単独で描かれている。本作において最も印象的なのはウンブリア派の巨匠ピエロ・デラ・フランチェスカの影響を感じさせる量感に富む聖母マリアの描写に、ヴェネツィア派の確立者ジョヴァンニ・ベッリーニ初期ネーデルランド絵画からの写実性の高い細密描写を加え、微妙な色調の変化による光彩の効果によって、作品世界の中だけ時が止まったかのような静謐で精神性の深い表現に他ならない。また同時に≪聖母マリア≫の単身像として他の画家には見られないアントネッロ・ダ・メッシーナ独特の人物表現における対象の存在感が示されている。なおヴェネツィアのアカデミア美術館に模写が一点、アルテ・ピナコテークにニ連祭壇画の片方として手がけられたと推測される改版が所蔵されている。

関連:アルテ・ピナコテーク所蔵『受胎告知の聖母』

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キリストの磔刑

 1475年
(Crocifissione con la Madonna e san Giovanni Evangelista)
59.7×42.5cm | 油彩・板 | アントウェルペン王立美術館

アントネッロ・ダ・メッシーナの傑作『キリストの磔刑』。イエスがゴルゴダの丘で十字架に架けられる場面を描く、キリスト教の中でも最重要視される教義のひとつである主題≪磔刑≫は、画家が生涯において繰り返し描いてきた主題でもあり、その中でも本作は最も複雑で劇的な構想によって描かれた作品である。やや陰鬱な印象を受ける情景の中、聖母マリアと静ヨハネを画面下部へ、主役となるイエスを画面上部へ配することによって生み出される中央の空間は場面へ虚空的な効果を与え、人間の罪を償い続けた神の子イエスの存在感を一層高めている。また左右に配される盗人の捻られる身体の動的な描写は、イエスの苦悶と苦悩を強調している。背景に描かれる色彩豊かな風景の描写はフランドル絵画の細密描写の影響を感じさせる。また構成的に高い位置に描かれるイエスと十字架は、画面内の空間の中で浮かび上がり、よりイエスの存在を強調している。聖母マリアと静ヨハネを画面下部へ、主役となるイエスを画面上部へ配することによって生み出される中央の空間は場面へ虚空的な効果を与えている。

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聖セバスティアヌス

 (San Sebastiano) 1476年頃
171×85cm | 油彩・板(画布) | ドレスデン国立絵画館

アントネッロ・ダ・メッシーナが後世に残した全作品中、最も著名な作品のひとつとして人々に受け入れられている代表作『聖セバスティアヌス』。メッシーナを中心に活躍した画家が、一時ヴェネツィアに滞在した際に描いたと研究される本作の主題は、杭(又は柱)に打ちつけられた後、矢を放たれた逸話で有名な、古くから最も親しまれてきたキリスト教の聖人のひとりである≪聖セバスティアヌス≫であるが、本作が例外なく魅力的な作品として現在までも評価されるのは、その背景の描写にある。当時、最も画期的な画法であった遠近法や幾何学的形態によって描かれる都市の姿は、聖セバスティアヌスが生きた古代を忠実に再現するものではなく、当時、アントネッロ・ダ・メッシーナが過ごしたイタリアの都市を再現しており、古代(の聖人)と、現代(当時)を綿密に結び付けている。また大気をも感じさせる柔らかくも強烈な光の表現は、この圧倒的な人気を誇る聖人と、活気溢れる都市をも光々と輝かせ、そこに用いられる明暗様々な色彩の表現は、ヴェネツィア派独自の色彩的美学を決定付けた。15世紀当時の国際的な影響関係を示すアントネッロ・ダ・メッシーナ随一の代表作として、今なお人々を惹きつけてやまない。

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