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十字軍のコンスタンティノポリス占拠
(十字軍のコンスタンティノープル入城)
(La prise de Constantinople par les croisés) 1841年
411×497cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)
19世紀フランス・ロマン主義最大の巨匠ウジェーヌ・ドラクロワの代表作『十字軍のコンスタンティノポリス占拠(十字軍のコンスタンティノープル入城)』。1830年にフランスで起こった七月革命で同国の君主に即位したオルレアン朝フランス国王ルイ=フィリップ1世の依頼により、ヴェルサイユ宮の同王の為の≪十字軍の間≫の歴史画として制作された本作は、フランスが主導権を握っていた第4回十字軍遠征の際に、東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルを攻略・陥落(※この攻略の際、十字軍は同地で暴虐の限りを尽くしたと伝えられている)させたという、同遠征の中で最も知られる逸話≪十字軍のコンスタンティノポリス占拠(十字軍のコンスタンティノープル入城)≫を主題とした作品である。画家自身、『
キオス島の虐殺』『
サルダナパロスの死(サルダナパールの死)』と並んで≪3つの虐殺画≫と呼称していた本作では画面中景から遠景にかけてその十字軍の凄惨な虐殺の光景が描き込まれているものの、画面前景ではむしろ十字軍の勝利の姿ではなく、この戦闘の犠牲者である東ローマ帝国の民衆の必死で生きようとする姿をドラクロワは描き出している。画面下部中央よりやや左側へはコンスタンティノープルへ侵入する(フランドル伯ボードゥアン9世率いる)十字軍に対し家族を助けようと必死に慈悲を乞う老人の姿が、右側には息絶えた(おそらく姉妹であろう)家族を抱き寄せ悲しみに暮れる若い娘の姿が、そしてその上部へは両手を背中で縛り上げられた捕虜が痛ましい姿で描かれている。画面の中へ描き込まれる人間の生に対する強い執着と強者と弱者の対比的な人間性の表現はドラマチックな印象を感じさせるドラクロワの作品の中でも白眉の出来栄えであり、今も観る者を魅了する。