Description of a work (作品の解説)
2011/02/16掲載
Work figure (作品図)
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若き殉教者の娘(殉教した娘)

 1855年
(La Jeune Martyre (Une martyre au temps de Dioclétien))
170.5×148cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

19世紀フランス折衷派の画家ポール・ドラロッシュ最晩年の傑作『若き殉教者の娘(殉教した娘)』。1853年から制作が開始され画家が死する前年となる1855年に完成した本作は、3世紀ディオクレティアヌス帝時代における≪初期キリスト教の若き殉教者≫を主題とした宗教画作品で、異教の神々に生贄を捧げることを拒否した為に死刑を宣告され、両手を縛られた後にテヴェレ河へ投げ込まれた無名の聖女という、それまで画家が手がけてきた物語性を容易に理解できる歴史画とは全く異なる≪宗教に対する無垢的な殉教性≫のみに焦点があてられている点は特に注目すべき点である。前景となる画面下部へ配される殉教した若い娘は、腹部の上で両腕を十字に縛られながらテヴェレ河を漂っているが、闇の中で神秘的な輪光に包まれるその姿には彼女の清白な純潔性を強く感じることができる。また後景となる画面上部には娘の遺骸を発見する2名のキリスト教徒が描かれているが、闇に沈み込むような両者の描写には、画家の作品的特徴でもあった誇張的な場面の物語的演出に対する決別を見出すことができる。また表現手法を考察しても、極めて写実的な描写を用いながら重厚な闇の中へ光の霊妙的な詩情性と殉教という象徴的概念のみを秀出させた表現には、ドラロッシュが最晩年に辿り着いたロマン主義的な新境地が示されている。制作が開始される前年の1852年にロンドンのロイヤル・アカデミーへ出品され大成功を収めたラファエル前派の画家ジョン・エヴァレット・ミレイの代表作『オフィーリア』からの影響を強く感じさせる本作(※当時は悲劇的主題としても大流行していた。また発表当時、批評家たちから「キリスト教のオフィーリア」と形容された)は、ドラローシュが病に臥していた時に見た夢から着想が得られたとも伝えられている。

関連:ジョン・エヴァレット・ミレイ作『オフィーリア』


【全体図】
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神秘的な光に包まれる殉教した娘。本作は、3世紀ディオクレティアヌス帝時代における≪無名の若き殉教者≫を主題とした宗教画作品で、それまで画家が手がけてきた物語性を容易に理解できる歴史画とは全く異なる≪宗教に対する無垢的な殉教性≫のみに焦点があてられている点は特に注目すべき点である。



【神秘的な光に包まれる殉教した娘】
腹部の上で十字に縛られる両腕。極めて写実的な描写を用いながら重厚な闇の中へ光の霊妙的な詩情性と殉教という象徴的概念のみを秀出させた表現には、ドラロッシュが最晩年に辿り着いたロマン主義的な新境地が示されている。



【腹部の上で十字に縛られる両腕】
暗闇の中のキリスト教徒。後景となる画面上部には娘の遺骸を発見する2名のキリスト教徒が描かれているが、闇に沈み込むような両者の描写には、画家の作品的特徴でもあった誇張的な場面の物語的演出に対する決別を見出すことができる。



【暗闇の中のキリスト教徒】

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