Description of a work (作品の解説)
2008/03/17掲載
Work figure (作品図)
■ 

メデュース号の筏

 (Le radeau de la Méduse) 1818-19年
491×716cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

フランスロマン主義の先駆的存在であり、同主義を代表する画家テオドール・ジェリコーの最高傑作にして、フランス絵画史上、最も陰惨な場面を描いた作品のひとつ『メデュース号の筏(いかだ)』。1819年のサロンへ『遭難の情景』という題名で出品された本作は、出品される3年前の1816年、フランス海軍所属フリゲート艦メデューズ号がフランスの植民地セネガルへ移住者らを運ぶ途中に、アフリカ西海岸モロッコ沖で実際に起こった座礁事故による、搭乗者の遭難に関する事件を描いた作品である。座礁したメデューズ号には救命ボートが搭載されていたものの数が足りず、船員以外の人々はその場で拵えた筏で脱出せざるを得ない状況あり、(女性1名を含む)150名もの人々を乗せた筏は漂流し続け、13日後に発見されるが、発見時には生存者がわずか15名となっていた。その間、筏は飢餓や暴動、殺戮、そして人食喰いなど、筆舌し難いほどの狂気的で極限的な状況にあったこともあり、当時のフランス政府は事件を隠蔽したが、生存者2名がこの一連の事件とその凄惨な状況を綴った書籍を出版したことによって公になり、王党政治(君主制)に不満を募らせていた世論を巻き込んで大騒動となった(なおメデューズ号の船長も王党派であった)。この事件を知った画家は大きな衝撃を受けて、本作の制作に踏み切り、サロンで公開するものの、この事件そのものが大きな政治的な問題を含んでいた為に、賛同・批判様々な意見が噴出した。なお1820年に(政治的な関わりのない)ロンドンで公開された際には概ね好評を得た。本場面は筏に乗ったメデューズ号の搭乗者が、自分らにはまだ気づいていない船(おそらくは同じ船団のアルギュス号)の影を、海上の遥か彼方に発見した瞬間であるが、この凄惨な事件を実際に目撃していたかのような現実味に溢れた表現は、単に入念な構想を練り習作を積み重ねるだけでなく、事件の当事者(生存者)への聞き込みや、死とすぐ隣り合わせに置かれる(又は死に直面した)人間の正確な描写をおこなう為に、病院へ入院している重篤患者をデッザンするほか、パリの死体収容所の死体をスケッチするなど、場面の臨場感と現実感を追及するために、ジェリコーは(画家としてできる)様々な取材をおこなったと伝えられている。画面最前景に死した搭乗者の姿を配し、後方(画面奥)へと向かうに従い、生命力の強い(生きる力の残る)者を配している。これは死した搭乗者の姿を絶望や諦念と、海上の彼方に船を発見した者を希望と解釈することもできるほか、人物の配置によって表れる三角形による一種のヒエラルキーの形成しているとも考えられる。さらに三角形の頂点に立つのが黒人であることも、画家が抱いていた反奴隷主義的思想の表れであると理解することができる。また表現においても、衝撃的でありながらモニュメンタルな壮大性や象徴性、男らの姿態を痩せ衰えた姿ではなく、古典芸術に基づいた肉体美に溢れる姿で表現するなど、ひとつの絵画作品として特筆すべき点は多い。なおドラクロワも画面下部の横たわる男のモデルとして本作の制作に参加している。


【全体図】
拡大表示
海上の彼方に船を発見し、腕を振る黒人の男。1819年のサロンへ『遭難の情景』という題名で出品された本作は、出品される3年前の1816年、フランス海軍所属フリゲート艦メデューズ号がフランスの植民地セネガルへ移住者らを運ぶ途中に、アフリカ西海岸モロッコ沖で実際に起こった座礁事故による、搭乗者の遭難に関する事件を描いた作品である。



【船を発見し腕を振る黒人の男】
必死に立ち上がり叫ぶ男たち。画面最前景に死した搭乗者の姿を配し、後方(画面奥)へと向かうに従い、生命力の強い(生きる力の残る)者を配している。これは死した搭乗者の姿を絶望や諦念と、海上の彼方に船を発見した者を希望と解釈することもできるほか、人物の配置によって表れる三角形による一種のヒエラルキーの形成しているとも考えられる。



【必死に立ち上がり叫ぶ男たち】
筏の上で無残に死した男の姿。この凄惨な事件を実際に目撃していたかのような現実味に溢れた表現は、単に入念な構想を練り習作を積み重ねるだけでなく、事件の当事者への聞き込みや、パリの死体収容所の死体をスケッチするなど、場面の臨場感と現実感を追及するために、ジェリコーは様々な取材をおこなったと伝えられている。



【筏の上で無残に死した男の姿】
陰惨な状況を物語る力無き男の姿。表現においても、衝撃的でありながらモニュメンタルな壮大性や象徴性、男らの姿態を痩せ衰えた姿ではなく、古典芸術に基づいた肉体美に溢れる姿で表現するなど、ひとつの絵画作品として特筆すべき点は多い。



【陰惨な状況を物語る力無き男の姿】

Salvastyle.com 自己紹介 サイトマップ リンク メール
About us Site map Links Contact us

homeInformationCollectionDataCommunication
Collectionコレクション
作品イメージ