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マヌエール・ゴドイの肖像
(オレンジ戦争指令官としてのゴドイ)
(Manuel Godoy) 1801年 | 181×268cm
油彩・画布 | サン・フェルナンド王立美術アカデミー
18世紀及び19世紀スペインの中で最も偉大なロマン主義の画家フランシスコ・デ・ゴヤを代表する肖像画作品のひとつ『マヌエール・ゴドイの肖像(オレンジ戦争指令官としてのゴドイ)』。本作はゴヤの芸術性に深い理解を示しその活動を強力に支援した画家のパトロンであり、フランス革命戦争時にスペインへ侵攻したフランス共和国と同国の間で講和条約(バーゼル和約)を交渉、締結したことから平和公爵とも呼称される同国の当時の宰相≪マヌエル・デ・ゴドイ≫を描いた全身肖像画作品である。本作はスペインと隣国ポルトガルとの間で1801年の5月から6月にかけて勃発した通称≪オレンジ戦争(※ゴドイは本戦争の最高指令官であった)≫の勝利を記念し制作された作品で、椅子に腰掛け肘掛に左腕を乗せながら指令書を手にする野営中の宰相ゴドイが画面中央へ描き込まれているが、紅潮した顔や恰幅のよい身体、驕傲的、不遜的にすら感じられる尊大なその姿には当時の王妃マリア・ルイサをも魅了した精悍で色欲旺盛な同氏の性格と内面性がよく示されている。この対象の人間性をも明確に浮き彫りにしたゴヤの肖像画作品は、衰退、破滅へと向かうスペインにおける権力的野心の虚しさや、歴史的な人物の記録的側面としても非常に興味深い。なお厳格なカトリック国家であったため極めて禁欲的な当時のスペインにおいてゴヤが密かに手がけた有名な裸婦作品『
裸のマハ』のモデルはマヌエール・ゴドイの愛人ペピータ・テュドーだとする説が有力視されている。