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石垣に座るブルターニュの女たち(壁によるブルターニュの女たち)
(Bretonnes au mur) 1892年
83.5×115.5cm | 油彩・厚紙 | 個人所蔵
19世紀末頃にフランスで提唱された新たな絵画様式≪総合主義≫の創始者のひとりエミール・ベルナールの代表作『石垣に座るブルターニュの女たち(壁によるブルターニュの女たち)』。対の作品として知られる『
ブルターニュ詩情(ブルターニュの女たちの風情)』と共に、1892年の3月から4月にかけて開催されたアンデパンダン展への出品作でもある本作に描かれるのは、ベルナールを始めとしたポン・タヴェン派の画家たちが滞在し旺盛に制作活動をおこなったブルターニュ地方に住む農婦らが石垣に座り休憩している情景である。画面前景にブルターニュの女と男が写真的(又は浮世絵的)な奇抜な構図で4名配されており、画面奥では石垣に座るブルターニュの女が二人、正面から描かれている。本作には前景と後景による画面構成がおこなわれているものの、その遠近感はベルナールが
ゴーギャンと共に提唱したクロワゾニスムを用いた平面的な表現によって皆無である。また本作の女性らを石垣の上に座らせるという場面展開については、
尾形光琳の≪光臨画譜≫から着想を得たとの指摘もされている。本作が出品された1892年のアンデパンダン展には画家が手がけた総合主義の傑作として名高い『
草地のブルターニュの女たち』と『
蕎麦の刈り入れ』も出品されているが、クロワゾニスムの表現において本作には確信的な深化を感じることができる。特に本作の立体性を脱して平面性を強調した色面による対象表現や色彩そのものの純化、遠近法を無視した装飾性の高い場面構成などは、4年前に制作された『
草地のブルターニュの女たち』と『
蕎麦の刈り入れ』からの明確な進歩を見出すことができ、ベルナールの絵画様式のひとつの到達点を示している。
関連:
対画 『ブルターニュ詩情(ブルターニュの女たちの風情)』