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屍衣の上に横たわる死せるキリスト
(Christ mort couché sur son linceul) 1654年以前
69×197cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ) |
フランス古典主義を代表する画家フィリップ・ド・シャンパーニュの宗教画作品のひとつ『屍衣の上に横たわる死せるキリスト』。フィリップ・ド・シャンパーニュの死後、遺族によりポール=ロワイヤル・デ・シャン大修道院内の教会へ献じられたと記録に残される本作に描かれるのは、磔刑に処され死した主イエスの横たわる亡骸≪死せるキリスト≫である。このような横たわる主イエスの亡骸を描いた作品はプレデッラ(祭壇画の下部に配される横長の画面)として古くからしばしば描かれてきた。本作と同様の内容で描かれたドイツ・ルネサンスの大画家で当時の最も著名な肖像画家のひとりとしても知られるハンス・ホルバイン(子)が手がけた傑作『墓の中の死せるキリスト』と比較してみても、前者が白目を剥き、絶望的なまでに肉体的な腐敗が進行し恐々しいまでの写実性を以って描かれるのにに対し、本作の深く瞑想的な精神性を携えた高貴で崇高な主イエスの亡骸が浮かべる表情や、やや浮き彫り的に描かれた神々しく闇に浮かび上がる肉体表現は、観る者に強い神性的な霊感を与えるだけではなく、ある種の甘美的な印象すら観る者に抱かせる。これらはフィリップ・ド・シャンパーニュの類稀な画才による優れた表現力と図像的解釈が宗教画において最も良く示された典型的な様式例であり、本作はその代表作とも言える。
関連:ハンス・ホルバイン(子)作 『墓の中の死せるキリスト』
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