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書物のあるマグダラのマリア (La Madeleine au Livre)
1630-1632年頃 | 78×101cm | 油彩・画布 | 個人所蔵 |
フランス古典主義の巨匠ジョルジュ・ド・ラ・トゥール作『書物のあるマグダラのマリア』。1980年代末(1888-89年)に存在が確認され、1992年に画家の作品として認定、公表された本作は、現存する作品中、最も多い主題である≪マグダラのマリア≫を描いた作品である(真作や残される模写などからラ・トゥールは少なくとも8点は、マグダラのマリアを主題とした作品を制作したと考えられている)。ワシントン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する『悔悛するマグダラのマリア(鏡のマグダラのマリア)』やルーヴル美術館に所蔵される『悔悛するマグダラのマリア(聖なる炎の前のマグダラのマリア)』などと比較してみてもわかるよう、本作は現存するマグダラのマリア作品の中で最も単純化されており、マグダラのマリアはほぼ全裸に近い状態で描かれているにもかかわらず、裸婦像の女性的官能性を全く感じさせないどころか、極力構成要素を排している分、ラ・トゥール独特の明暗対比の大きな蝋燭の光の表現が強調され、場面の神秘性や思想性が際立っている。また蝋燭の炎そのものや、それによって捲れあがる書籍の頁、マグダラのマリアが両手を添えるように持ち、対話しているかのような頭蓋骨の自然主義的な写実描写も特筆に値する出来栄えである。さらに近代〜現代絵画のような印象すら受ける、面と深い陰影が顕著な人物(マグダラのマリアの肢体)の形態描写も注目すべき点のひとつである。なお制作年代に関しては1630-1632年頃(一部では1630-1635年頃と位置付けている)としているものの、本作の細身の形態描写や単純化された人物の姿態などから晩年の作とする説も唱えられている。
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