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いかさま師 (クラブのAを持った)
(Tricheur (à l'as de trèfle)) 1632-1635年頃
96×155cm | 油彩・画布 | キンベル美術館(フォート・ワース) |
20世紀初頭まで忘失されていた古典主義の画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥール屈指の傑作『いかさま師(クラブのAを持った)』。ラ・トゥールの作品は静謐で精神性の高い夜中を思わせる宗教画が主体であったが、このような風俗画でも、卓越した観察眼でいかさまを行なおうとする男の劇的な瞬間を捉えた類稀な作品を描いている。イタリア・バロックの大画家カラヴァッジョが最初に描いたとされている本主題≪いかさま師≫は、当時の道徳論で三大誘惑とされた「遊興」「酒」「淫蕩」を戒める意味を持つと考えられている。また豪華ながら、どこか艶やかさで世俗的な身なりやテーブルに積まれた金貨から、中央の横目の女性はカードゲームに興じる高級娼婦であることが伺え、この娼婦に象徴される不審的な雰囲気は本作の大きな見所のひとつである。道徳画でもあった本作は、遊興に溺れると騙されることを観る者に訴えている作品として解釈できるものの、今まさに、いかさまを行なわんとする男の視線は本作を観者を向き、観る者にこの行為に対する罪悪感や嫌悪感、そして傍観することである種の興奮的な感情を抱かせる。なお本作より数年の後に、同主題、同構図でダイヤのAに掏りかえる(又は掏りかえた)瞬間を描いた『いかさま師(ダイヤのAを持った)』を描いており、現在はルーヴル美術館が所蔵している。
関連:カラヴァッジョ作 『いかさま師』
関連:1635-1638年頃 『いかさま師(ダイヤのAを持った)』
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