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エルサレム落城(皇帝ティトゥスによるエルサレムの神殿の崩壊) (Prise de Jérusalem) 1638年頃
147×198.5cm | 油彩・画布 | ウィーン美術史美術館 |
フランス古典主義の画家ニコラ・プッサン1630年代後半の代表作『エルサレム落城(皇帝ティトゥスによるエルサレムの神殿の崩壊)』。フランチェスコ・バルベリーニ枢機卿の依頼により制作されたと推測される本作は、古代イスラエルの著述家フラウィウス・ヨセフスによるユダヤ戦争の記録書≪ユダヤ戦記≫に記された、ローマ皇帝ウェスパシアヌスと共にエルサレムへ進軍した息子ティトゥス・フラウィウス・ウェスパシアヌ(第二代皇帝)が率いる軍隊によっておこなわれたエルサレムの占領と神殿の炎上(陥落)の場面を典拠に描かれた作品で、当時は既に一般的であった本主題に、群集構図と舞台的な演劇性が示されているのが大きな特徴である。≪エルサレム落城≫は、主イエスを磔刑に処したユダヤの民へ向けられた父なる神の怒りも同時に表されると解釈されており、当時のカトリックにおいても本主題は難色を示す主題ではなかった。現存するプッサンの原画に基づく版画により、本作以外にもプッサンが同主題を描いていたことが判明しているものの、本作で白馬に跨る雄雄しいティトゥスの表現や、ローマ兵によって捕らえられるユダヤの民の苦悶に満ちた表情、神殿付近でローマ兵に抵抗しながらも駆逐される民衆らの群集表現などは、特に秀逸の出来栄えを示している。また重質感に溢れた神殿の堅牢性や明瞭で鮮やかな色彩表現も本作の大きな見所のひとつである。なお本作はロマン主義の巨匠ドラクロワが手がけた作品『十字軍のコンスタンティノーブル入城』にも影響を与えたことが知られている。
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