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日本趣味 : 雨の大橋(大はしあたけの夕立)
(Japonaiserie : pont sous la sluie) 1887年
73×54cm | 油彩・画布 | ファン・ゴッホ美術館
後期印象派の大画家フィンセント・ファン・ゴッホの日本趣味(ジャポニズム)に対する強い憧れが顕著に示される作例のひとつ『日本趣味 : 雨の大橋(大はしあたけの夕立)』。本作は19世紀前半期を代表する浮世絵師
歌川広重随一の錦絵『
名所江戸百景 大はしあたけの夕立』をゴッホがほぼ忠実に模写した作品である。ゴッホはこの時期、本作以外にも同じく
歌川広重の『
梅の花』や渓斎英泉の『
雲龍打掛の花魁』など複数の錦絵の模写作品を残しており、これらの原図はゴッホの模写作品が世界的な知名度を得るに至る大きな要因のひとつとなった。原図をほぼ忠実に模している本作で最も注目すべき点は、原図となった『
名所江戸百景 大はしあたけの夕立』最大の特徴であり、西洋式絵画表現とは決定的に異なる雨の描写にある。上空から降る雨を複数の長い斜線によって描写する錦絵独特の手法は、西洋の一般的な雨の表現とは全く異質なものであるが、豪雨の激しい躍動感や落ちる水滴の瞬間の速度の印象度は非常に高いものであり、ゴッホも(西洋式表現と比較し)この極めて個性的で独自性豊かな表現に惹かれたが故、『
名所江戸百景 大はしあたけの夕立』を模写したのであろうと推測されている。さらに原図の簡素ながら大胆な構図によって描写される手前の大橋や、斜めに傾く水平線の妙にも惹かれたことであろう。なお原図には認められない周囲の漢字による装飾は、『
梅の花』同様、日本趣味的表現の強調として描き込まれたと推測されている。
関連:
歌川広重作 『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』