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老松白鳳図(動植綵絵)
1765-66年頃(明和2-3年)
(Old Pine Tree and White Phoenix)
142.3×79cm | 三十幅内一幅・絹本著色 | 三の丸尚蔵館
江戸時代中期(18世紀)、京都で活動した特異の絵師、伊藤若冲の傑作花鳥画群≪動植綵絵≫より『老松白鳳図(ろうしょうはくほうず)』。画家が自身の作品を世の中に末永く残そうと三十幅の花鳥画を制作し相国寺へ喜捨したことで、現在まで色褪せることなく無事伝えられる連作群≪動植綵絵≫の中で最後期となる第三次期(1765-1766年頃)に手がけられた1点である本作は、老松に中国に伝わる伝説の霊鳥≪鳳凰≫を配した作品であると共に、桐も合わせられていることから伝統的な≪桐に鳳凰≫の吉祥図でもあり、快作の多い動植綵絵の中でも特に優れた代表作品として挙げられることも多い。本作は(動植綵絵と同様に)宮内庁三の丸尚蔵館へ所蔵される、絵師が1755年頃に手がけた雌雄2羽の鳳凰に旭日を合わせた『
旭日鳳凰図』のうち、羽を広げる雄の鳳凰のみを白羽毛に変えて描かれていることが明らかとなっているが、裏彩色(裏透けする絹本の特徴を活かし裏側から彩色することで、顔料の彩度を保持しながら微妙な色彩効果を画面へ与える技法)によって描かれる鳳凰のレースのような純白の羽の美しさは今も観る者を惹きつけてやまない。細密に描かれる老松と桐の絶妙な配置や、白鳳、旭日、老松、桐に用いられる色彩の対比など見所の特に多い本作で、最も注目すべきはあまりにも妖艶的な印象の強い白鳳の表現にある。白鳳の姿態こそ(本作、そして
旭日鳳凰図の)原図となった明画に倣われているものの、数多の曲線の組み合わせによって描写される白鳳の流れるような振る舞いや切れ長の目の表情など、その姿には艶やかな色気を感じずにはいられない。そしてそれは赤色、緑色の2種で描き込まれるハート型の尾端によって、より強調されている。妻を娶らず、生涯独身を貫いた若冲であるが、本作の妖艶な鳳凰には若冲の秘めた性的嗜好や欲望、画面右上の旭日の下方へ配された白鳳を見つめる山鳩の姿には若冲自身の投影がしばしば指摘されている。
関連:
三の丸尚蔵館所蔵 『旭日鳳凰図』
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