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ウルビーノのヴィーナス
(Venere d'Urbino) 1538年
119×165cm | 油彩・画布 | ウフィツィ美術館(フィレンツェ)
完成後、あらゆる時代において、裸婦像を描く上での基準作となったティツィアーノの代表作『ウルビーノのヴィーナス』。後にウルビーノ公となるグイドバルド・デラ・ロヴェーレが、妻のために依頼し制作された本作は、未完であった兄弟子
ジョルジョーネによる『
眠れるヴィーナス』を、ティツィアーノが補筆し完成させたその25年後、同様の構図で制作した作品であるが、
ジョルジョーネの
ヴィーナスが神話(想像)の中にその美しさが存在していることを示すよう、眠りについているのに対し、ティツィアーノはヴィーナスを完全に目を覚ました姿(又は身繕いをする姿)で描くことによって、現実の中にも同価値の美(悦楽的な美)が存在していることを表現したと考えられている(なお本主題の解釈についても研究が進んでおり、これ以外では、結婚における愛の寓意とする解釈や、聖と俗における対称的価値の表現とする解釈、理想と現実の間の普遍的な美の表現とする解釈、注文主グイドバルドの妻の跡継ぎ受胎への祈願とする解釈なども唱えられている)。本作に描かれるのは、静かに横たわり、柔らかな薄い笑みを浮かべる愛と美の女神ヴィーナスの裸婦像であるが、視線はこちらを向き、観者に対して、女性の神聖性と訴えると共に、ある種のエロティックさを抱かせる表現がなされている。また輝くような色彩や、永遠の愛や愛の悦びを象徴する薔薇を握るヴィーナスの肌の質感、女性美の象徴とも言える丸みを帯びた裸体は、ヴィーナスの表現の基準的作例、典型的作例として、
アングルや
カバネルなどの新古典主義やアカデミーの画家を始めとした後世の画家らに、多大な影響を与えることになった。本作のモデルに関しては依頼主グイドバルド(又はその父フランチェスコ・マリア・デッラ・ローヴェレ)の愛人とする説、父フランチェスコの妻エレオノーラとする説、高級娼婦とする説など諸説唱えられているものの、どれも確証を得るまでには至っていない。なお本作は
印象派の先駆者
エドゥアール・マネが描いた問題作
『オランピア』の裸婦展開にも重大な影響を与えた(本作では≪従順≫を象徴する存在として犬が描かれたが、
『オランピア』では高ぶる性欲を示す、尾を立てた黒猫として描かれた)。
関連:
ジョルジョーネ作 『眠れるヴィーナス』
関連:
エドゥアール・マネ作 『オランピア』