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ポンパドゥール夫人の肖像(マダム・ド・ポンパドゥール)
(Portrait de Mme Pompadour) 1755年
175×128cm | パステル・紙 | ルーヴル美術館素描室
パステル画家モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールが手がけたロココ様式随一となる肖像画の傑作『ポンパドゥール夫人の肖像(マダム・ド・ポンパドゥール)』。本作は当時のフランス国王ルイ15世の公妾(公式の愛妾)であり、ロココ様式や文化の形成に多大な影響を与えた≪ポンパドゥール侯爵夫人≫が35歳の頃の肖像画で、侯爵夫人の弟マリニー候から依頼され制作された作品ある。ポンパドゥール侯爵夫人は平民階級出身ながら、その美貌と幼少期から受けてきた教育・教養の高さから、当時のフランス国王ルイ15世の公妾(公式の愛妾)の地位と、それによる絶大な権力を得るに至るまで登りつめた女性で、同時期を代表する画家
フランソワ・ブーシェなど数多くの画家がポンパドゥール侯爵夫人の肖像画を制作しているが、本作はその最も代表的な作品と位置付けられており、画家自身もパステル画が油彩画に劣らないことを示す目的で本作を手がけたとの記述も残されている。画面中央にやや斜めに首を傾げるポンパドゥール侯爵夫人が描かれているが、その表情は憂いを帯びながらも凛とした意思と志の高さを感じさせる。この表情はポンパドゥール夫人が当時置かれていた状況(夫人は絶大な権力と政治的影響を有していた故に敵も多かった)への複雑な心情を反映したものであり、本作のような対象の人物の内面にまで迫った真実性に満ちた表情の描写こそ、ラ・トゥールの肖像表現中核のひとつであり、観る者に強い印象を残すのである。さらにパステル独特の軽快な質感による輝きを帯びたドレスの表現や装飾品・家具の描写も特に注目すべき点のひとつである。またポンパドゥール侯爵夫人が手にする楽譜や画面左側(夫人の座る椅子の奥)に配される楽器は音楽を、画面右側の豪華な机の上に描かれる地球儀や『法の精神』第三巻、『百科事典』第四巻など当時の最先端の知識を詰め込んだ書物は学問、高い教養を、その下の(おそらくは夫人が描いたと思われる)デッサンは芸術を意味しており、ポンパドゥール侯爵夫人の当時の文化に対する高い関心と貢献を表している。
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