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悲しみの人キリスト (Cristo, Varón de Dolores) 1641年
97×78cm | 油彩・画布 | プラド美術館(マドリッド) |
17世紀スペインの画家アントニオ・デ・ペレーダ作『悲しみの人キリスト(又は苦しみの人キリストと呼ばれる)』。来歴から、おそらく国内の修道院のために制作されたと考えられる本作に描かれるのは、新約聖書には記されないものの、中世以来、人気の高かった、≪茨の冠≫や≪笞打ち≫、≪磔刑に処されるためにゴルゴダの丘へと向かうキリスト≫など、主に受難者としての主イエスを描くイコノグラフ(宗教的図像)のひとつ≪悲しみの人≫で、自然主義的な表現の中に、国際ゴシック様式に通ずる信仰への強い訴心性が含んでいるのが大きな特徴である。この信仰心へ訴えかけるような独特な側面を併せ持つ本作に関して、ナポリ派の始祖的画家フセペ・デ・リベーラや巨人ティツィアーノ、大画家アルブレヒト・デューラーの影響が指摘されているほか、研究者の中にはスペインで活躍した巨匠エル・グレコや、初期ネーデルランド絵画の影響を指摘する者もある。またペレーダ得意の質感に溢れた細密的な自然主義的表現や劇的で感受性豊かな光や色彩の表現は、受難者イエスの肉体的苦痛を明確に示しながらも、人間の罪をイエス自らが償うという深縁な精神性や聖性を強く表すことによって、本主題が持つ独特の静謐性をより一層、強調しているのである。
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