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聖衣剥奪(Expolio)1577-79年
285×173cm | Oil on canvas | トレド大聖堂 |
マニエリスムの最後を飾る巨匠エル・グレコ作『聖衣剥奪』。37歳の時に大聖堂からの発注で、新約聖書からキリストが十字架かけられる直前の衣服を剥がれる姿を主題に制作した。新約聖書は本来ギリシャ語で書かれており、同国の出身であるエル・グレコは、原文をより理解し、数々の宗教画を残しているが、この『聖衣剥奪』は外套を朱色と、それまであまり見られなかった鮮やかな色彩で描いた。また完成後、マリアが三人登場していること、キリストの頭より群衆の位置が高く描かれていること(キリストに対する冒涜)のふたつの理由から、絵の報酬を払えないと大聖堂から通達を受け、裁判で争うが、大聖堂側から異端審問をかけると持ち出され、妥協し、調停案(本来エル・グレコが提示していた額の約1/3)を受け入れた。この聖衣剥奪という主題は正典(新約聖書)には記されていないが、イエスの上着をローマ兵士が剥ぎ取り、4つに分けた後、身に着けていた下着をくじにかけたとされるほか、本内容と同様のものが旧約の詩篇(ダヴィデ書)にも記述されている。イエスが自ら運ばされた磔刑に使用される十字架を見つめる3人のマリアは左から小ヤコブの母、聖母、マグダラのマリアと解釈されているが、異論も多い。バロック美術の形成にも影響を与えた、マニエリスムの大きな特徴でもあるドラマティックで、やや大げさな人物の描写は、本作の見所のひとつである。
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