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アルトワ伯爵と妹クロチルドの肖像
1763-64年
(Portrait du comte d'Artois et sa sœur Madame Clotide)
129×97cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)
18世紀のフランスで活躍した肖像画家フランソワ=ユベール・ドルーエを代表する作品のひとつ『アルトワ伯爵と妹クロチルドの肖像』。王家コレクションの名目で同家から注文を受けたドルーエが1763年に制作した本作は、後にブルボン朝最後のフランス国王シャルル10世として即位する、ルイ16世の弟≪アルトワ伯爵(シャルル・フィリップ・ド・フランス)≫とその妹≪クロチルド≫の幼少期の姿を描いた肖像画作品である。画面中央に描かれる幼いアルトワ伯爵とクロチルドは柔らかい笑みを浮かべながら観る者へと視線を向けており、両者の顔の印象的な黒い瞳には子供らしい無垢な生命感が強く感じられる。このドルーエ独特の瞳の表現に関して当時の著名な批評家ディドロは「彼(ドルーエ)は子供の眼の中に穏やかで軽やか、それでいて瑞々しい光の反射を描く。そこには子供らしい透明な生命の息吹が描き込まれている」と評している(※ただしディドロはドルーエの描く肖像画のあまりにも白い肌を「白亜のような」と批判もしている)。また穏やかで優美な田園風景の中に描かれるアルトワ伯爵とクロチルドの姿態や全体の構図にはやや作為的な印象を受けるものの、細部まで緻密に描き込まれた衣服や装飾品の描写には眼を見張るものがある。さらに本作で注目すべき点は、ロココ的で華麗な優美性・の中に感じられる感傷性と人工性にあり、この感傷性と人工性には新古典主義的様式の萌芽を見出すことができる。なお本作は制作された1763年のサロンへ出品され、殆ど全ての批評家から絶賛されたと伝えられている。
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