Introduction of an artist(アーティスト紹介)
画家人物像
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トマス・ゲインズバラ Thomas Gainsborough
1727-1788 | イギリス | ロココ美術




18世紀イギリスの中で最も重要な画家のひとり。繊細かつ優雅な筆触と調和性の高い色彩の表現による風景画や肖像画を制作し名声を博す。その情緒豊かで軽快な描写は同国において数少ないロココ様式を体現する画家として広く認められている。現存する作品の大半が肖像画か風景画、そしてファンシー・ピクチャーと呼ばれる理想的風俗画であるものの、神話を主題とした作品も残されている。1727年、羊毛業者の息子としてサフォークのサドバリーに生まれ、幼少期を同地で過ごしながら素人画家であった母親から絵画の教えを受ける。1740年からロンドンに出て、当時、同地を訪れていたフランス人挿絵画家ユベール・グラヴロに学ぶ。1745年頃に画家として独立、よく1746年にはマーガレット・バーと結婚。独立以降、風景画を主軸として絵画を制作するものの売れず、バースや故郷サドバリーなどへ移りながら上流階級層の肖像画を制作し、生計を立てる。またこの頃、パトロンでもある上流階級層の美術愛好家たちが所有するピーテル・パウル・ルーベンスアンソニー・ヴァン・ダイクバルトロメ・エステバン・ムリーリョの作品から大きな影響を受け、ゲインズバラ独特の優雅で気品漂う作風を確立する。以降、数多くの肖像画を手がけ画家としての名声を確立し、1768年にはロイヤル・アカデミーの設立に参加する。その後も精力的に制作活動をおこない、1784年以降はアカデミーとの対立もあり自宅で個展を開催するものの、1788年にロンドンで死去。同時代の画家でありゲインズバラと人気を二分していたジョシュア・レノルズは「英国絵画の歴史の最初の頁に記されるのはゲインズバラである」と称賛の言葉を贈ったことが知られるほか、画家の類稀な風景画はイギリスを代表する風景画家ジョン・コンスタブルにも多大な影響を与えた。

Description of a work (作品の解説)
Work figure (作品図)
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アンドリューズ夫妻の肖像(ロバート・アンドルーズと妻フランシスの肖像)

 (Mr and Mrs Andrews (Robert Andrews and His wife Frances)) 1748-49年頃
69.8×119.4cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

18世紀イギリスを代表する画家トマス・ゲインズバラ初期の最も重要な作品『アンドリューズ夫妻の肖像(ロバート・アンドルーズと妻フランシスの肖像)』。本作はゲインズバラが独立して間もない1748-49年頃に、英国東部サフォーク州サドバリーの若き領主ロバート・アンドリューズの依頼によって制作された、同氏と妻フランシスとの≪結婚肖像画≫である。画面左側には地位の高さを観る者に連想させる、犬を従え猟銃を小脇に抱えた(本作の主役である)ロバート・アンドリューズが自然的な姿態で描き込まれ、その隣には清潔で気品を感じさせる薄青色の衣服を身に着けた妻フランシスが軽やかに描写されている。そして画面中央から右側にかけては、ロバート・アンドリューズが統治するサドバリー近郊オーベリーの美しく広大な風景が配されている。肖像画としてはやや不自然さを感じさせる本作で最も注目すべき点は、人物と風景の調和的表現と、風景に対する高い関心にある。ゲインズバラ自身は肖像画よりも風景画での成功を願っていたことが知られており、本作にも風景を画題としたかのような構図・構成などにその思惟が示されている。そして自身の絵画に対する思惟・想念におぼれることなく、本来描くべきロバート・アンドルーズと妻フランシスの肖像表現で、カンヴァセーション・ピース(集団家族肖像画)の手法を取り入れつつ、風景との完全な調和を試みている点に、ゲインズバラの(英国絵画界における)革新性と類稀な才能を見出すことができる。

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ジョヴァンナ・バチェッリの肖像


(Portrait of Giovanna Baccelli) 1782年展示
226.7×148.6cm | 油彩・画布 | テート・ギャラリー

18世紀イギリス美術界の最も重要な画家のひとりトマス・ゲインズバラを代表する肖像画作品のひとつ『ジョヴァンナ・バチェッリの肖像』。本作は第3代ドーセット公爵ジョン・フレディック・サクヴィルの依頼により、同氏の愛人であったヴェネツィア出身でロンドンのキングス・シアターの看板バレリーナ(ダンサー)≪ジョヴァンナ・バチェッリ(本名ジョヴァンナ・フランチェスか・アントニオ・ジュゼッペ・ザネリーニ)≫の姿を描いた肖像画作品で、1782年にロイヤル・アカデミーへ展示されたことが知られている。画面中央に配されるジョヴァンナ・バチェッリは麗しく魅惑的な笑みを浮かべながら身に着けた舞台用の衣服の端を左手に持ち、観る者へと視線を向けている。斜めに構えた動きのある姿態はジョヴァンナ・バチェッリのバレリーナとしての個性を的確に示すだけでなく、彼女の愛らしい性格的側面をも見事に表現することに成功している。さらに動きのある姿態によって衣服には皺が入り艶やかな光沢のある素材感を効果的に見せている。本作で最も注目すべき点は当時の批評でも取り上げられた空気のように軽やかで瑞々しい筆触と色彩表現にある。当時の油彩技法としては非常に薄く重ねられた筆触は、まるで水彩技法を思わせるほど透明感に溢れ、さらに素早く動かされた細かい筆触がそこに類稀な軽快性を与えている。これらの表現はゲインズバラ独自の様式の最も大きな特徴のひとつであり、その円熟した技法が本作には良く示されている。

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朝の散歩(ウィリアム・ハリット夫妻の肖像)

 1785年
(The Morning Waik (William Hallett and His Wife Elizabeth))
236×179cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

18世紀イギリスの偉大なる画家トマス・ゲインズバラ最晩年の傑作『朝の散歩(ウィリアム・ハリット夫妻の肖像)』。本作は1785年7月に若くして結婚した裕福な上流階級ウィリアム・ハレットとエリザベス・スティーブンの結婚肖像画として制作された作品で、おそらくは両者の結婚後とある秋頃に完成したと推測されている。画面前景右側には新郎ウィリアム・ハリットが、中央には(おそらくはウェディングドレスと思われる)上品で質の良い絹地の衣服を身に着けた新婦エリザベス・スティーブンが、そして画面左側前景には伝統的に忠誠を象徴する一匹の犬が、後景には両者の幸福的な現状と未来を連想させる典雅的な風景が広がっている。この光に溢れた風景(後景)に示される軽快で空気感の漂う独特の筆触は、画家の晩年期の様式の大きな特徴であり、17世紀絵画黄金期のオランダ絵画の風景表現に通じながら、ゲインズバラの風景に対する独自的表現の融合を見出すことができる。また本作の画題となる2人の若き新郎新婦の表現や描写手法に注目しても、アンソニー・ヴァン・ダイクに倣う英国の格式を重要視する伝統的な表現と比較すると、明確な自然的調和と滲み出るかのような叙情性を強く感じることができる。これらの表現は当時の英国において非常に革新的であり、このような描写表現による上流階級層の肖像画はステータス・シンボル(社会的地位の高さの象徴)としても流行していた。本作はゲインズバラの画業とその表現様式において、その到達点を示す作品でもあり、現在も画家を考察する上では非常に重要視されている。

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