Introduction of an artist(アーティスト紹介)
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ピエトロ・ロンギ Pietro Longhi
1701-1785 | イタリア | 風俗画家




18世紀ヴェネツィアで活躍した風俗画家。ヴェネツィアを中心とする当時の貴族社会や生活、労働者たちを鋭い観察眼で見つめ、優雅で穏やかな描写の中に軽妙な風刺を織り交ぜながら風俗画として表現。その啓蒙的な視点による風俗画としての世界観はヴェネツィアのみならず当時の欧州の中でも特筆に値する。画業の初期には宗教画や歴史画、大規模な装飾画なども手がけていたが、1735年頃から風俗画も手がけだし、1740年代初頭には小画面構成による独自の風俗画様式を確立した。表現手法としては初期・晩年期には重厚な明暗対比による濃密な表現が中心であるが、1740年代〜1760年代頃までは明瞭で繊細な色彩表現が際立つ。1701年(又は1702年)、ヴェネツィアで金細工職人として労働していた一家に生まれ、同地の画家アントニオ・バレストラの許で修行を始める。次いで同時代のボローニャ派を代表する画家ジュゼッペ・マリア・クレスピの工房に入り、クレスピの繊細な光彩表現と明確な明暗対比を習得。その後、ヴェネツィアの裕福な貴族や商人などから注文を受け数々を作品を手がけるが画家としての確固たる成功には至らず、1740年代に入ると版画を通じてアントワーヌ・ヴァトージャン・シメオン・シャルダンなどフランスの画家の影響を受け、作品に明るさを増しながら独自の様式を確立し成功を収める。1760年代後半には再び大きな明暗対比と深い陰影が作品の中へ表れるようになるほか、仮面を着けた人物像を多用するようになる。1785年、故郷ヴェネツィアで死去。

Description of a work (作品の解説)
Work figure (作品図)
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歯医者

 (Dentista) 1746年頃
50×62cm | 油彩・画布 | ブレラ美術館(ミラノ)

18世紀イタリアを代表するヴェネツィアの風俗画家ピエトロ・ロンギの傑作『歯医者』。本作はパラッツォ・ドゥカーレの玄関前でおこなわれる歯の治療を題材にピエトロ・ロンギが1746年頃に制作した風俗画作品のひとつである。画面上部中央へは、つい今し方抜歯したのであろう歯医者が歯を右手指先で抓み、集まる者へと誇示するように掲げている姿が配され、その直下では患者である少年が抜歯したばかりの口を手拭(ハンカチ)で押さえており、その痛々しそうな姿は観る者へもよく伝わってくる。画面右側には患者の少年を心配そうに見つめる2人の婦人や、通行人であろうヴェネツィアの仮面舞踏会の伝統的な衣服を身に着けた人々が描き込まれている。反対側の画面左側へは猿へ餌(パン)を与える無邪気な子供たちのほか、朱儒(小人、背丈が低い者)が凶を避けるために、人差し指と小指を立てて「悪魔の凶眼(悪魔祓いを意味する)」のサインを右手で形作っている姿などが配されている。本作で最も注目すべき点は、画家の主要な画題のひとつであった≪同時代の職業≫を取り上げ、ヴェネツィアの日常を描写したその姿勢にある。明瞭な光彩や主題の扱いについてはアントワーヌ・ヴァトージャン・シメオン・シャルダンなどフランスの画家の影響が色濃く反映されているものの、ピエトロ・ロンギはそこへヴェネツィアの伝統を感じさせる豊潤な色彩表現や調和性を融合させ独自的な風俗画へと昇華させており、観る者の目を奪うばかりである。

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 (Rinoceronte) 1751年
62×50cm | 油彩・画布 | 18世紀ヴェネツィア美術館

18世紀ヴェネツィアで活躍した風俗画家ピエトロ・ロンギの代表作『犀』。本作は同時代の見世物など特に注目された時事を、画家が実際にその場へ足を運び写生した風俗画の最初の作品で、当時、欧州中で珍重された異国の動物≪犀≫がヴェネツィアで見世物として展示された時の様子が克明に描き出されている。画面中央から下部には欧州には生息していない、象に次いで大きな陸生の草食哺乳類動物である犀(サイ)が悠々と、そして憮然にも感じられる様子で干し草を食べる姿や垂れ流された糞が配され、画面上部にはそれを珍しそうに見物する貴族たちや鞭を振りかざす見世物小屋の者が描き込まれている。見物人よりはるかに大きく、硬く黒々とした皮膚や獣としての特異な姿には(おそらく)当時、初見であろうヴェネツィアの人々に対して威圧的に映ったであろうことは容易に想像でき、本作に描かれる犀はそのような動物的特徴を見事に捉えている。さらにピエトロ・ロンギが見世物そのものの熱気も本作へ描き出している点に特筆すべき点は多い。画面右端へ描かれる赤い外套を身に着けた男は長パイプを咥えながらまじまじと犀を眺めており、画面上部の一段高い観覧席に配される三名の女性らの中央の女性は覗き込むような視線を犀へ向けている。さらに思うような行動をおこさない犀に対してやや苛立ちを見せる見世物小屋の者(鞭を振りかざす者)など、現在、我々が当時の様子を知るのに十分な情報をロンギは本作の中へ描き込んでいる。

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新世界(覗きからくり)

 (Mondo novo) 1756年頃
62×50.5cm | 油彩・画布 | クエリーニ・スタンパリア美術館

18世紀ヴェネツィアの風俗画家ピエトロ・ロンギの典型的な作例のひとつ『新世界(覗きからくり)』。ヴェネツィアのクエリーニ・スタンパリア美術館に所蔵される本作は、当時のヴェネツィアにおける謝肉祭(カルネヴァーレ)の一場面で、パラッツォ・ドゥカーレの回廊でおこなわれた見世物のひとつである≪覗きからくり(庶民は「新世界」と呼んでいた)≫の情景を描いた作品である。画面左側上部(画面奥左側)へ本作の名称ともなった覗きからくりと、それをアピールする主人が配されているが、そこに注目している者は本作中に誰一人として描かれていない。それは本作を閲覧する者やピエトロ・ロンギ自身も同様であり、(我々を含む)視線は、否が応にも画面中央でおこなわれる男女の駆け引きに向けられる。前景では画面中央よりやや右側に配されるヴェネツィア独特の礼服(ヴェラーダ)を着た優男が、白く上品な肩かけを身に着けた若い娘を誘う姿が描き込まれている。若い娘は男の誘いに興味を示す態度は見せていないものの、最低限の礼は尽くしているようである。その隣にはおそらくは友人であろう豪華な金色の肩かけと水色の衣服が特徴的な娘が配されているが、この娘は2人の動向を注意深く観察するかのように視線を両者へと向けている。そして画面最前景となる画面左下に配されるひとりの人物が、それらを傍観的に眺めている。さらにその奥では黒仮面(モレッタ)と黒外套(バウッタ)を着た2名の人物がなにやら怪しげな会話に明け暮れている様子が描かれているほか、画面右奥には娘が誰かと話しこんでいる姿が配されている。ロンギ自身も出向いていたであろう、この謝肉祭における市民たちの人間的な様子や動向を、優雅かつ穏やかに表現しながら、その内面に潜む世俗性をも描き出した画家の鋭い観察眼は、本作でも特に注目すべき点である。

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リドット(賭博場)

 (Ridotto) 1757-60年頃
60×48cm | 油彩・画布 | クエリーニ・スタンパリア美術館

18世紀ヴェネツィアを代表する偉大なる風俗画家ピエトロ・ロンギの典型的な作品のひとつ『リドット(賭博場)』。本作は当時のヴェネツィアに存在していた娯楽場≪リドット(賭博場)≫の光景を描いた風俗画作品で、同画題の作品(又はヴァリアント)が複数存在していることからピエトロ・ロンギ自身の本画題に対する強い関心を見出すことができる。画面中央には伝統的な仮面衣装≪黒外套(バウッタ)≫を身に着けた男が、扇子を手にした身なりの良い若い女性を口説いている姿が描かれており、やや顔を背けつつも満更でもなさそうな若い女の態度に男女の甘美な駆け引きが感じられる。そして画面左側にはその光景を傍観する緑色の衣服を身に着けた男が配されている。さらに画面奥では黒外套(バウッタ)を身に着けたもうひとり男が、赤いショールと黒仮面(モレッタ)で姿を隠した女性に声をかけており、もうひとつの世俗的光景が示されている。画面右端へ目を向けると、本舞台の主目的でもあるカード賭博に興ずる(おそらくは高い身分の)男たちが、傍らでおこなわれる男女の駆け引きに脇目も振らず、カードへと視線を集中させている(さらに床には数枚カードが散らばっている)。本作で最も注目すべき点は、凝縮された空間・画面構成による世俗性豊かな人物の性格的描写にある。60×48cmと小画面を活かした距離の近い密接な人物の配置による、賭博場の不道徳的雰囲気や社会的問題性への風刺を感じさせる描写は、当時の様子がありありと観る者へ伝わってくる。

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