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蚤を取る女
(Donna che si spulcia) 1730年頃
55×41cm | 油彩・画布 | サン・マッテオ美術館(ピサ)
18世紀ボローニャ派の巨匠ジュゼッペ・マリア・クレスピの典型的な作品のひとつ『蚤を取る女』。おそらくはロンドンのオペラ座の支配人オーウェン・マクスウィニー(※彼は
カナレットの最初の画商としても知られている)の依頼によって制作された本作は、簡素な寝台(ベッド)の上で己の身体や衣服についた蚤を掻き毟りながら取る姿を描いた風俗画である。従順そうな一匹の犬と共に簡素な木製の寝台に腰掛ける女は、衣服の中へ手を伸ばしながら纏わりつく蚤を必死に取っており、その姿は、寝台の傍らへだらしなく脱ぎ捨てられた室内の履物と共にある種の卑俗性すら感じさせる。また画面奥には幼子を抱く老人が外へと出かけるのであろう小瓶を手にする老婆に何か声をかける姿が描かれている。本作で最も注目すべき点は、直接的で人間味の溢れる風俗描写にある。繊細に表現された明瞭な光彩によって簡素な室内と主対象(本作では蚤を取る女)を見事に浮かび上がらせており、観る者は否応なく本作の世界観に惹き込まれる。さらに壁に掛けられる大蒜(ニンニク)の束や籠、飾られる皿など細部の静物描写が本作の生活観に溢れた風俗性をより強めている。このような日常や実生活での体験をそのまま写したかのような風俗描写はフランドルの風俗画作品の影響であるが、クレスピの古典主義的様式と融合することによって、そこに神秘的な魅力が発生している。なお本作のような≪蚤を取る女≫を画題としたクレスピの作品は複数知られており、中でもフィレンツェのウフィツィ美術館が所蔵する女性歌手に着想を得て制作された連作の中の一点と推測される『
蚤』は本作と共に画家を代表する作品として広く認められている。
関連:
ウフィツィ美術館所蔵 『蚤』
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