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アポロンの二輪馬車(アポロンの馬車と竜)
(Le Char d'Apollon) 1909-1910年頃
91.5×77cm | パステル・油彩・画布 | オルセー美術館(パリ)
フランス象徴主義の巨匠オディロン・ルドン晩年期の代表的作品のひとつ『アポロンの二輪馬車(アポロの馬車、アポロンの馬車と竜)』。本作は古代ローマの大詩人オウィディウスによる詩集≪転身物語(変身物語)≫に記される、大地の母神ガイアに代わって、パルナッソス山の麓に存在したという古代ギリシアの都市国家デルポイの地を守護していた予言の力を有する巨大な雌蛇ピュトンを、神託所を設けるために退治する≪太陽神アポロン≫に典拠を得て制作された作品で、
ロマン主義の大画家
ウジェーヌ・ドラクロワが手がけたルーヴル美術館の天井画『
大蛇の神ピュトンに打ち勝つアポロン』をルドンなりに再解釈した作品であると考えられている。
ドラクロワの『
大蛇の神ピュトンに打ち勝つアポロン』は野蛮に対する文明の勝利の寓意が込められる作品であるのに対し、ルドンが本作の、特に≪天翔ける馬車≫に込めたものは「アポロンの馬車は苦悩後に訪れる至福の喜びである」と主題について語っているよう、人間の、そして自身の解放と理想の追求の象徴、さらには芸術的創造の象徴としての姿である。本作の主題である≪アポロンの馬車≫はこの頃のルドンが幾度も取り上げていた、画家にとっても非常に重要な主題であり、その中でも本作と、ボルドー美術館に所蔵される『
アポロンの馬車(アポロンの戦車)』は人々に最もよく知られている。画面中央にはアポロンの馬車(戦車)をひく4頭立ての白馬が配されており、その姿はまさに≪天翔ける≫ような疾走感に溢れている。画面右側には輝きに包まれた太陽神アポロンがおぼろげに描写されており、画面下部には太陽神アポロンが退治した不気味な黄緑色の大蛇ピュトンがのた打ち回るかのような姿で配されている。本作は色彩表現に注目しても、何層にも重ねられた深みを感じさせる青色の空の描写や、その中に映える白馬の白色や太陽神の金色、そして暗黒の大地の中で不気味な光を帯びた大蛇ピュトンの黄緑色などルドン独特の繊細さを感じさせる色彩構成は特に観る者を魅了する。
関連:
ドラクロワ作 『大蛇の神ピュトンに打ち勝つアポロン』
関連:
ボルドー美術館所蔵 『アポロンの馬車(アポロンの戦車)』