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アシドドのペスト(ペストに襲われるペリシテ人) 1630年頃
(Peste d'Azoth, dit aussi Philistins frappes de la peste.)
148×198cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ) |
フランス古典主義の画家ニコラ・プッサンの代表作『アシドドのペスト(ペストに襲われるペリシテ人)』。本作は、旧約聖書サムエル記上第5章に記される、ペリシテ人がイスラエルの民の方舟から神の契約の櫃を盗み、異教の神ダゴンの像を神殿に置いたことから父なる神(ヤハウェ)の怒りを買い、異教の神像が砕かれ、アシドドの街が疫病(ペスト)に襲われる次々とペリシテ人が倒れたとされる≪アシドドのペスト≫を主題に描かれた作品で、遠近法を用いた建築描写が示される画家の最も初期の作品でもあり、ルネサンス期の建築家セルリオ著≪建築≫の中に描かれたギリシア悲劇の舞台の版画を参考にしたと推測されている。画面左端ではアシドドの異教の神ダゴンの像が砕かれ、ペリシテ人たちが父なる神ヤハウェの怒りを恐れている。前景ではペストに倒れるペリシテ人の母親や、その死体の傍らでは母親の乳を求め縋りつく幼子などが、残酷なまでの(生々しい)写実的感覚で描かれている。このプッサン初期の代表作かつ転換点となった本作は、画家が研究していたルネサンス期の巨匠ラファエロの失われた作品『プリュギアのペスト』に想を得ていたと考えられる。また各登場人物らの演劇的要素を含んだ人体・場面表現は注目すべき点のひとつである。なお本作は新古典主義の大画家ジャック=ルイ・ダヴィッド作『マルセイユのペスト』やロマン主義の巨匠ドラクロワ作『キオス島の虐殺』など後世の画家らの作品に直接的な影響を与えたことでも知られている。
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