Introduction of an artist(アーティスト紹介)
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ウスターシュ・ル・シュウール Eustache Le Sueur
1616-1655 | フランス | 古典主義




フランス古典主義期の画家。フランスのラファエロと称された古典主義に則る規律正しい構図や抒情性、豊かな情念を携えた表現、明瞭かつ軽やかでありながら濃厚な彩度を感じさせる色彩で数多くの作品を制作。ル・シュウールはシモン・ヴーエの弟子であり、しばしば画家の作品が師の作品と見なされ、誤属されていたものの(事実、ル・シュウール初期の作品にはヴーエの影響が如実に示される)、現在では同時代のフランスを代表する画家として重要視されているほか、当時最も芸術が発展し、流行の最先端であったイタリアを来訪せず、国内で大成した画家としても注目に値する。1616年にパリで生まれ、画才に恵まれていたル・シュウールはシモン・ヴーエの下でバロック様式の絵画を学び絵画技術を習得。その後、1640年から2年間パリに滞在したニコラ・プッサンに強く感銘を受け、プッサンルネサンス三大巨匠のひとりラファエロ・サンツィオの作品に影響されながら次第にヴーエの様式を離れ、独自の様式を確立。以後、ランベール邸やルーヴル宮の装飾を手がけながら、宗教画、神話画、歴史画のほか肖像画や風俗画を制作し、画壇で確固たる地位を確立。また王立絵画・彫刻アカデミー創立メンバーとして尽力。1655年、生地であるパリで死去。享年39歳。

Description of a work (作品の解説)
Work figure (作品図)
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コリオラヌスの前のウォルムニアとウェトゥリア


(Volumnie et Véturie devant Coriolan) 1638年
115×175cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

フランス古典主義時代に活躍した画家ウスターシュ・ル・シュウールの代表的な作例のひとつ『コリオラヌスの前のウォルムニアとウェトゥリア』。本作に描かれるのは古代ローマの歴史家ティトゥス・リウィウス著≪ローマ建国史≫や帝政期ローマのギリシア人著述家プルタルコスによる伝記≪英雄伝≫に記される、同胞に追放された古代ローマの将軍コリオラヌスが、かつて己が打ち倒した敵と組みローマに復讐しようとローマを包囲するも、使者としてコリオラヌスへ訪れたコリオラヌスの母ウォルムニアと、コリオラヌスの妻ウェトゥリアの説得によりその思いを留まらせた場面から、ウォルムニアとウェトゥリアがコリオラヌスに攻撃を止めるよう嘆願する姿≪コリオラヌスの前のウォルムニアとウェトゥリア≫である。画面中央のコリオラヌス、ウォルムニア、ウェトゥリアとその子供らを中心に対角線上に配された登場人物らは、各人とも場面を説明するために大げさな動作や仕草を示しており、主要人物であるコリオラヌス、ウォルムニア、ウェトゥリアは他の者より一段と強い光に照らされ、明確に本場面の役割や存在感を表している。また色彩においても主要人物には一段と鮮やかで濃厚な色彩を用いられているほか、登場人物の対角線の反対に位置する右上の雲空の白色と薄青色と、左下の大地と階段の茶色や黄色は見事な対照性を示している。本作が描かれた1630年代のル・シュウール作品は師であるシモン・ヴーエの様式の影響が色濃く反映されているものの、本作では師の様式より構図的単純化の傾向が示されるほか、画家の豊かな色彩感覚による人物描写は若き画家の才能が表れている。

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受胎告知

 (Annonciation) 1650年
寸法不明 | 油彩・画布 | トレド美術館

フランス古典主義の画家であり、名高き王立絵画・彫刻アカデミーの創立メンバーとしても知られるウスターシュ・ル・シュウール最晩年期の代表作『受胎告知』。本作は新約聖書ルカ福音書1:26-38に記される有名な≪受胎告知≫を主題として制作された作品である。本作の主題≪受胎告知≫は、ガリラヤ湖近郊ナザレ(現イスラエル北部地区の都市)に滞在していた聖母マリアの下へ父なる神より遣わされた大天使ガブリエルが天より訪れ、戸惑うマリアに向かい「恵まれし方、主が貴女と共におられる。恐れることはない。貴女は身ごもり男児を産む。その子にイエスと名付けよ。その子は聖なる者、神の子と呼ばれる」と懐胎の言葉を伝え、マリアが「どうしてそのようなことがあり得ましょう。私はまだ男性を知りません」と戸惑いの告白を述べると、続いて「聖霊が貴女に降りる。神にできぬことはない」と告げた、マリアも神の意思を理解し承服する場面で、旧約聖書イザヤ書(※預言者イザヤによるメシア=救世主に関する予言書)の成熟と解釈される、教義上最も重要な場面のひとつとして認知されている。画面左側に神の子イエスの懐姙を聖告する大天使ガブリエルを、画面右側にそれを厳粛に受け入れる聖母マリアを配し、真横からの視点で描かれる本作の構図は≪受胎告知≫の絵画としては極めて古典的であり、その安定的で規律正しく厳格な構成にはル・シュウールの古典主義性がよく表れている。しかし本作でより注目すべき点は、軽快で鮮やかな色彩と大天使ガブリエルの神秘的な浮遊感との調和性にある。特に左手で(主題のアトリビュートである)白百合を持ち、右手で天上から放たれる父なる神の威光(及び明確な意思)を指し示す大天使ガブリエルの動性と静性が絶妙に混在した姿態描写は、大理石の彫像のように動きのない聖母マリアや、静謐さが際立つ全体の情景と見事に調和し、まるでこの奇跡の瞬間を切り取ったかのような霊妙の場面へ現実感すら与えることに成功している。

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十字架を運ぶキリスト

(Jésus portement sa Croix)
1651年頃 | 61×126cm | 油彩・板 | ルーヴル美術館(パリ)

フランス古典主義時代の画家ウスターシュ・ル・シュウール作『十字架を運ぶキリスト』。パリのサン・ジェルヴェ教会礼拝堂内の祭壇のプレデッラ(祭壇下部に配される横長の装飾画)として制作された本作に描かれるのは、自らユダヤの王と称しユダヤの民を惑わしたとして捕らえられた受難者イエスが、総督ピラトの命によって笞打ち(鞭打ち)の刑を受けた後、磔刑に処される為にイエス自らが十字架を担いゴルゴダの丘に運ばされる途中で疲弊によって倒れてしまった場面≪十字架を運ぶキリスト(十字架を担うキリスト)≫で、画家が晩年期までに辿り着いた明瞭かつ軽やかでありながら濃密な色彩を感じさせる独特の表現が見事な出来栄えを示している。十字架を自ら担いながらゴルゴダの丘を登り、疲弊して倒れてしまった受難者イエスは苦悶と苦痛の表情を浮かべながらも、観る者はどこかそこに甘美な感覚や印象を受ける。また受難者イエスが倒れた時に直ぐさまイエスの下へ駆け寄り、顔の血と汗を持っていた布で拭ったとされている架空の聖女≪聖ウェロニカ≫が白布をイエスの御前に差し出し、キレネ人のシモンが受難者イエスの苦悶に歪む姿に耐えかね(ローマ兵士らの挑発により)手伝おうとイエスが担う十字架に手を伸ばしている。これらの場面は人々の罪を受難者イエスがその身に受け入れるという新約聖書の中でも特に劇的で悲愴感に満ちた場面であるものの、本作ではそれらは影を潜め、どこか牧歌的で、穏やかかつ静謐性を感じさせる独自の世界観によって表現されている。

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クレイオ、エウテルペ、タレイアのミューズたち


(Clio, Euterpe, et Thalie) 1652-1654年
130×130cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

フランス古典主義時代に活躍した画家ウスターシュ・ル・シュウール晩年の代表作『クレイオ、エウテルペ、タレイアのミューズたち』。ルイ13世統治下のフランスの国務大臣であったランベールが建築した豪壮な私邸の≪ミューズの間≫の装飾画のひとつとして制作された本作に描かれるのは、太陽神アポロンに付き従う諸芸術を司る九人の女神ミューズ(ムーサ)の中から、クレイオ(名声や歴史を司る)、エウテルペ(喜び、叙事詩を司る)、タレイア(歓声や喜劇を司る)の姿である。エウテルペは横笛を用いて音楽を奏で(エウテルペを描く場合、通常、笛を奏でる姿が描かれる)、その隣では薄桃色と橙色の衣を身に纏うクレイオが書物(歴史や知識を司る者のアトリビュート)とラッパを手に鎮座している。そして青色の衣服のタレイアが大地に座し、右手に持つ仮面(叙事詩や田園詩のアトリビュート)を見つめている。本作の軽快で明瞭な色彩や古典的な解釈に基づく安定的な画面構成、ルネサンス三大巨匠のひとりラファエロ・サンツィオを思わせる甘美性に満ちたミューズらの表情や姿勢などに、ル・シュウール晩年の優れた独自的表現が随所に感じられ、画家随一の代表作として今日まで広く知られている。

関連:『メルポメネ、エラート、ポリムニアのミューズたち』

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メルポメネ、エラート、ポリムニアのミューズたち


(Clio, Euterpe, et Thalie) 1652-1654年
130×130cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

フランス古典主義時代に活躍した画家ウスターシュ・ル・シュウール晩年の代表作『メルポメネ、エラート、ポリムニアのミューズたち』。ルイ13世統治下のフランスの国務大臣であったランベールが建築した豪壮な私邸の≪ミューズの間≫の装飾画のひとつとして制作された本作は、太陽神アポロンに付き従う諸芸術を司る九人の女神ミューズ(ムーサ)の中からメルポメネ(悲劇や歌を司る)、エラート(歌詞や恋愛詩を司る)、ポリムニア(英雄などへの賛美歌や物真似を司る)の姿を描いた作品である。青衣に身を包むポリムニアはヴィオラ・ダ・ガンバを演奏し、その背後では紅桃色の衣を身に纏うメルポメネがその音に耳を傾けている。そして黄と緑色の衣服のエラートが大地に座し、譜面を広げている。本作において特に際立つのはミューズ(ムーサ)が身に着ける衣服の鮮やかで明瞭な色彩の美しさにあり、巨匠ニコラ・プッサン様式の隆盛を予感させる画家の(晩年期における)濃厚な色彩表現が最も示された作品としても見るべき点は多い。またヴィオラ・ダ・ガンバを演奏するポリムニアの表情に代表されるよう、本作の登場人物の甘美性を携えた表情表現も特筆に値する出来栄えである。

関連:『クレイオ、エウテルペ、タレイアのミューズたち』

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