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Introduction of an artist(アーティスト紹介)

ヴァランタン・ド・ブーローニュ Valentin de Boulogne (Le Valentin)
1591-1632 | フランス | バロック・カラヴァッジェスキ一派

17世紀フランスに活躍したカラヴァッジェスキの画家。心理描写や憂鬱的な表現、ロマン主義的な主情主義的表現に長け、バロック絵画の巨匠カラヴァッジョの様式に倣う、深く厳しい明暗対比による自然主義的な写実描写を用い、当時、芸術の先端都市のひとつであるローマで宗教画、風俗画、肖像画、寓意画などを制作。画家の生涯の詳細は晩年の5年間を除き、殆ど知られていないが、1591年、クロミエに生まれ、おそらくは1613-1614年頃に修行のためにローマへ向かう。同地でカラヴァッジョやマンフレディなどカラヴァッジョの追随者の作品から影響を受け、カラヴァッジェスキに準ずる様式を会得。ローマで熱心な美術愛好家であったフランチェスコ枢機卿や、その一族(バルベリーニ家)、枢機卿の秘書カッシアーノ・ダル・ポッツォらと親密になり、同氏らの庇護の下で作品を手がける。ヴァランタンは好色で無軌条な性格であったと考えられ、画家の死亡原因は夏に大酒を飲んだ後、暑さから泉に飛び込み溺死した伝えられている。また音楽を主題とした作品が多く残されることから、画家がボヘミアン(社会の習慣に縛られず、芸術などを志し自由気ままに生活する者を指す)的な生活を営んだとの伝説が広く流布するも、それを裏付ける史実的資料は残されていない。享年41歳。


Work figure (作品図)
Description of a work (作品の解説)
【全体図】
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ソロモンの審判 (Jugement de Salomon) 1625年頃
176×210cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

17世紀フランスに生まれたカラヴァッジェスキ一派の画家ヴァランタン・ド・ブーローニュの代表作『ソロモンの審判』。ルーヴル美術館が所蔵する『スザンナと長老たち』の対画として制作された本作に描かれる主題は、旧約聖書 列王記(上)3:17-28に記される≪ソロモンの審判≫で、画家の深く鋭い主題への取り組みが示されている。本作の主題≪ソロモンの審判≫は、同じ家に住む二人の娼婦がそれぞれ子供を産むが、ある夜、片方の娼婦が誤って子供を窒息死させてしまうと、もう片方の娼婦の子供を奪い自分の死した子供と取り替えてしまい、娼婦らの間に争いがおき彼女らが法廷に訴えると、生きている子供を剣で斬り半分づつ分けるよう命じた師士ダヴィデの末子で父と同様、師士に就いたソロモンが、片方の娼婦はそれに同意する姿を、もう片方の娼婦は子供を生かしてくれるよう懇願する姿を見て、本当の母親(懇願する娼婦)を見抜いたとされる逸話であるが、本作の劇的で明暗対比の大きい光彩表現による登場人物の強い感情描写はヴァランタンの最も特徴的な様式・表現のひとつであり、本作の主題表現においてそれは非常に有効な効果を生んでいる。なお画家が1620年頃に手がけた本作とほぼ同寸法・同構図の作品をローマの国立古典美術館(パラッツォ・コルシーニ)が所蔵していることが知られている。

関連:国立古典美術館所蔵 『ソロモンの審判』

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合奏(古代の浮彫と合奏) (Concert) 1622-1625年頃
173×214cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

17世紀フランスに生まれたカラヴァッジェスキ一派を代表する画家ヴァランタン・ド・ブーローニュ随一の傑作『合奏(古代の浮彫と合奏)』。本作は古代の浮彫を囲み、若い男女が合奏する場面≪合奏≫を描いた風俗画で、画家は生涯にこの≪合奏≫を主題とした作品を複数枚手がけている。本作はその中でも特に代表作とされる作品で、明らかにカラヴァッジョを始祖とするカラヴァッジェスキ様式の厳しく深い明暗対比や劇的な光と影の表現、非常に高度な自然主義的写実描写が示されている。音楽という主題や、画面右端で観る者の方を向きながら羽根帽子の男が手にするリュート(中世から16〜17世紀にかけてヨーロッパで広く用いられた撥弦楽器)は、カラヴァッジョが初期に手がけた『リュートを弾く若者』などと共通する風俗的モティーフであるほか、隣でギターを奏でる若い女性の顔は、『アレクサンドリアの聖カタリナ』などカラヴァッジョが描く特徴的な女性像の面影を感じさせる。また画面手前や奥で酒の飲む騎士や子供、画面左端でヴァイオリンを弾く若い男や中央でおそらく楽譜を捲る男、それを片肘をつき憂鬱そうに聞く幼子など≪合奏≫の場面の中に様々な動作・表情によって各々の人間性や感情を感じさせる巧みな描写は、本作の特筆すべき点のひとつである。

関連:カラヴァッジョ作 『リュートを弾く若者』
関連:カラヴァッジョ作 『アレクサンドリアの聖カタリナ』

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女占い師 (Diseuse de bonne aventure) 1628年頃
125×175cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

17世紀フランス・カラヴァッジェスキの画家ヴァランタン・ド・ブーローニュ晩年の代表作『女占い師』。作品制作の詳しい詳細や目的は不明であるも、かつてルイ14世が所有し、ヴェルサイユ宮王の間に飾られていたことなどから、当時より高く評価されていたことが知られている本作に描かれるのは、ジプシー風の女占い師が(若い)男を占う場面≪女占い師≫で、イタリアバロック絵画の巨匠カラヴァッジョも『女占い師』を手がけているほか、同時代のフランス古典主義の画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥールシモン・ヴーエも同主題を描いているなど、≪女占い師≫はこの時代を代表する風俗的主題である。本作で女占い師は椅子に座る若い男の手をとり、その未来を占っているが、女占い師の背後では、別の男が女占い師の財布を盗もうと手を伸ばしている。しかしこの女占い師が持つ財布も、女占い師が別の者から盗んだ財布であり、≪盗まれる盗人≫という側面的な教義も本作には示されているのである。画家の晩年の基準作と見なされる本作であるが、ヴァランタンは本作以外にも、この時期に少なくとも2点は≪女占い師≫を主題に作品を描いている。登場人物らに見られる現実を強く感じさせる自然主義的な描写は、当時には既にやや時代遅れであったものの、人間性の探求という画家の作品に貫かれる様式的思想は、本作において驚嘆すべき圧倒的な表現にて示されているのである。

関連:カラヴァッジョ作 『女占い師』

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