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麗子微笑(青果持テル)
(Smiling Reiko with a green fruit in her hand) 1921年
45.7×38cm | 油彩・画布 | 東京国立博物館(上野)
近代日本を代表する洋画家、岸田劉生が手がけた傑作中の傑作 重要文化財『麗子微笑(青果持テル)』。画家自身の言葉によれば10日ほどで完成させたとされる本作は、愛娘である麗子を描いた連作群の中でも特に知られる作品であり、昭和46年(1971年)には国の重要文化財に指定されている。劉生は大正7年(1918年)の作品『
麗子五歳之像』から実際に麗子をモデルとした肖像を制作しており、以後、立像、坐像、着物姿、洋服姿、舞姿と様々なバリエーションを持つ麗子像を描き、表現方法も油彩、水彩、墨彩、コンテと多岐に渡った。画面左上には「麗千九百二十一年十月十五日 劉」と漢字の縦書きで書かれている本作の麗子が羽織っている色彩豊かな肩掛は、ほつれる様子まで克明に描写されているものの、写実に傾倒していた1910年代後半の作品と比較するとやや大ぶりの筆触へと変化しているのは注目に値する。肩掛は本来麗子の遊友の村娘お松の所有物だったが、劉生が非常に好んだため、麗子に買い与えたショールと交換するほどであったという逸話が残されるほか、前髪を切り揃えたおかっぱ頭の麗子の瞳中には一点の光が描き込まれており、生命感と深い精神性を宿した眼差しが表現されている。また画家自身の解説ではモティーフの一部を
ロマン主義の画家
フランシスコ・デ・ゴヤに得たとされる本作は、多くの研究者から
ルネサンスの巨匠
レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作『
モナ・リザ』を範とした指摘もなされているよう、口元にはアルカイック風の柔和な微笑みを湛えており、捉え難い情念性を醸し出している。そして幼さの名残り漂う小さな右手には球状の青果が携えられているが、頭部と比較すると麗子の右腕はやや小さく描かれ、劉正独自の卓越したバランス感覚と、忠実な写実をさらに突き詰め、対象に変形を加えることによって神秘的な味わいを深めていくという彼の非凡な態度を看取することができる。このように緊密な計算によって描出された麗子像には、一種の聖性を帯びたような印象さえも受ける。劉正の目指した「内なる美」を彷彿とさせる彼の画境の深まりを見せた作品であり、神秘性のある謎めいた眼差しと微笑みは、観者の心を捉えてやまない。
関連:
東京国立近代美術館所蔵 『麗子五歳之像』
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